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06|がん研究の現在地を知るマクロファージを標的とするがん研究

MACROPHAGE-TARGETED RESEARCH|患者さんとご家族のためのがん解説

マクロファージを標的とする
がん研究

研究は、マクロファージの移動・数・働き・貪食・細胞設計へ広がっています

マクロファージは、がん組織の中へ入り、周囲の環境に合わせて働き方を変える免疫細胞です。

がんの周囲では、血管形成、線維化、免疫抑制、浸潤、治療後の修復などへ関わります。一方、働く方向が変わると、がん細胞を貪食し、T細胞やNK細胞へつなぐ役割も担います。

こうした柔軟さを利用し、がんを支える働きを弱め、がんへ向かう働きを引き出す研究が世界で進められています。

マクロファージの「いる場所」と「働く方向」に注目します

腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、多くの固形がんで腫瘍微小環境を構成します。血液中の単球が腫瘍へ呼び込まれる場合と、組織にもともといるマクロファージが変化する場合があります。

研究では、マクロファージの数だけを見ているわけではありません。どこから来たのか、腫瘍のどこにいるのか、どの信号を受け、どの細胞へ働きかけているのかを調べます。同じ腫瘍の中にも異なる状態のマクロファージがいるため、標的とする場所や時期も重要になります。

FIGURE|マクロファージを標的とする5つの研究方向

減らす研究から、働きを変え、
治療に使う研究へ

マクロファージが腫瘍へ集まる流れ、腫瘍内での維持、働く方向、貪食のブレーキ、遺伝子改変した細胞療法という5つの研究方向を示した概念図
01呼び込みを調整する

血液中の単球が腫瘍へ集まる信号を標的にする

02維持と数を調整する

腫瘍内でTAMを支える信号へ働きかける

03働く方向を変える

免疫抑制から攻撃と免疫活性へ切り替える

04貪食を促す

がん細胞が出す「食べないで」の信号を遮る

05治療する細胞として使う

標的を見分ける受容体や治療物質を持たせる

※研究方向を患者さん向けに整理した概念図です。標的、薬剤、対象となるがん、研究段階は方法ごとに異なります。

腫瘍へ集まる流れと、TAMを支える信号を調整します

がん細胞や周囲の細胞は、単球やマクロファージを呼び寄せる物質を出します。CCL2とCCR2の経路などを標的にし、血液中の単球が腫瘍へ集まる流れを調整する研究が行われています。

CSF-1とCSF-1Rの経路は、TAMの生存や働きに関わります。この経路へ働きかけ、TAMの数を調整する方法、性質を変える方法、ほかの治療が働きやすい環境をつくる方法が検討されています。

身体の各組織では、マクロファージが感染防御や修復を担っています。研究では、腫瘍内のTAMへどこまで選択的に働きかけられるか、治療後に別の細胞が補う反応まで含めて評価します。

マクロファージの働く方向を切り替えます

腫瘍微小環境では、低酸素、乳酸、線維化、炎症性物質などが重なり、マクロファージの働きを変えます。研究では、CD40、Toll様受容体、STING、PI3Kγなどの信号へ働きかけ、免疫を抑える方向から、がんへの攻撃と免疫活性を支える方向へ切り替える方法が調べられています。

働きが変わったマクロファージは、がん細胞へ直接働きかけるとともに、抗原を提示し、T細胞やNK細胞が動きやすい環境づくりへ関わります。このため、免疫チェックポイント阻害薬や薬物療法、放射線治療との組み合わせが重要な研究テーマになっています。

「食べないで」の信号を遮り、貪食へつなげます

多くのがん細胞は、表面にCD47という分子を多く出します。CD47がマクロファージ側のSIRPαと結合すると、貪食を止める信号が伝わります。

CD47とSIRPαの結合を遮り、マクロファージががん細胞を取り込めるようにする研究が進められています。がん細胞へ目印をつける抗体医薬と組み合わせ、マクロファージが標的を認識しやすくする方法も検討されています。

CD47は赤血球を含む正常な細胞にも存在します。臨床研究では、標的の選び方、投与量、貧血などの安全性、組み合わせる治療を確かめながら開発が進められています。

マクロファージを、腫瘍へ入る細胞療法として使います

マクロファージは、固形がんの組織へ入り込む性質を持っています。この特徴を生かし、がん細胞の目印を認識するキメラ抗原受容体を持たせたCARマクロファージ(CAR-M)が開発されています。

CAR-Mには、標的を認識して貪食する、腫瘍微小環境へ炎症の信号を出す、がんの情報をT細胞へ伝えるという複数の働きが期待されています。IL-12などの免疫を動かす物質を腫瘍内へ届けるため、マクロファージを運び手として設計する研究もあります。

CAR-Mは、ヒトでの初期臨床試験へ進んでいます

2025年、HER2を多く持つ進行固形がんに対するCAR-Mの第I相試験が報告されました。14人が治療を受け、安全性と細胞を製造できるかが主な評価項目でした。

用量制限毒性、重度のサイトカイン放出症候群、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群は確認されませんでした。HER2が強く発現する9人では、4人が8週時点で安定を維持しました。HER2の発現が中程度の5人では、明確な治療効果は示されませんでした。

治療後の解析では、CAR-Mが腫瘍へ入り、CD8陽性T細胞が増える変化が確認されました。この試験は、CAR-Mをヒトへ投与する安全性と実施可能性を示す初期段階の研究です。治療効果を判断するには、対象とする目印、投与方法、併用療法、より多くの患者さんでの検証が必要です。

研究段階第I相試験
対象HER2陽性の進行固形がん 14人
主な目的安全性と製造可能性
次に確かめること効果・対象・組み合わせ

研究の段階を分けて読み取ります

基礎研究仕組みを見つける

細胞や動物を用いて、標的と反応の関係を調べる

初期臨床試験人で確かめ始める

安全性、投与量、製造、体内での動きを調べる

臨床的な検証治療としての価値を確かめる

効果、対象患者、標準治療との組み合わせを比較する

「マクロファージを標的とする」という言葉には、薬剤、抗体、細胞療法など異なる方法が含まれます。現在地は研究ごとに異なるため、論文の対象、研究段階、評価項目を分けて読むことが大切です。

マクロファージと腫瘍微小環境を、治療の組み合わせから考えます

マクロファージは、がんを支える側にも、がんへ働きかける側にもなります。研究の焦点は、細胞を一律に増減させることから、腫瘍内の状態を見分け、必要な場所で働く方向を変えることへ広がっています。

がん治療の研究所では、標準治療を基盤に、がん細胞の特徴、マクロファージの状態、低酸素、慢性炎症、代謝、線維化、患者さんの身体の状態を重ね、どの組み合わせが治療へつながるのかを研究しています。

免疫と身体環境から治療を考える

自分の場合は、どのように考えればよいのか

自分の場合を考える