ANTI-CANCER PEPTIDE × MACROPHAGE|2つの研究が交わる場所
抗がんペプチドと
マクロファージをつなぐ研究
がん細胞へ働きかけた後、免疫がどのように受け取るのかを考えます
抗がんペプチドの研究は、がん細胞へ近づき、細胞内へ入り、増殖を抑えたり細胞死へ導いたりする仕組みを追究してきました。
マクロファージの研究は、傷んだ細胞や異物を見つけて食べ、その情報を周囲の免疫細胞へ伝え、炎症と組織修復を調整する働きを明らかにしてきました。
両者が交わる場所は、抗がんペプチドが働いた「その後」です。がん細胞に起きた変化をマクロファージがどう受け取り、どのような免疫反応へつなげるか。ここに、2つの標的を一つの治療設計へつなぐ研究テーマがあります。
「がん細胞へ働く」と「免疫が受け取る」を
一つの流れで確かめます

- 01抗がんペプチドがん細胞を捉える
細胞表面の性質を手がかりに近づく
- 02細胞内作用細胞の中へ移行する
核およびミトコンドリア等に働きかける
- 03細胞死の信号傷んだことを知らせる
細胞死の種類と放出される信号を調べる
- 04マクロファージ見つけて、食べる
細胞断片を認識し、貪食する
- 05免疫の連携仲間へ情報をつなぐ
T細胞やNK細胞との反応を確かめる
この図は研究仮説を含む概念図です。抗がんペプチドの種類によって細胞死の起こり方が異なり、その後の免疫反応も変わります。
抗がんペプチドは、がん細胞の性質を手がかりに研究されています
多くの抗がんペプチドは正の電荷を持ち、がん細胞膜に多い負の電荷を帯びた分子との相互作用を利用します。膜を乱すタイプ、細胞内へ移行して核内のDNA・RNAやミトコンドリア等へ働くタイプなどがあり、配列や立体構造によって作用は変わります。
ACPの研究背景となるBuforin IIbでは、がん細胞へ選択的に入り、主に核へ集積するとともに、ミトコンドリア依存性のアポトーシスを誘導することが細胞研究で報告されています。前立腺がん細胞とマウスの移植腫瘍を用いた研究では、解糖系を抑える物質との組み合わせによる作用も調べられました。
AIを用いて設計されたACPは、配列や性質が異なる新たなペプチドとして、細胞への選択性、作用機序、投与量、安全性、ヒトでの反応をACPそのもののデータで確かめていきます。
細胞死の後に、2つの研究の接点があります
がん細胞が死ぬと、その表面や周囲にさまざまな信号が現れます。細胞表面へ出るカルレティキュリンは「食べて」の目印となり、細胞外へ放出されるATPやHMGB1は、免疫細胞を呼び集めたり、危険を知らせたりする信号になります。
こうした信号を伴い、免疫反応を引き起こしやすい細胞死は「免疫原性細胞死」と呼ばれます。RT53やLTX-315など一部の抗がんペプチドでは、細胞・動物研究において免疫原性細胞死を示す反応が報告されています。
細胞がアポトーシスを起こしたという事実と、抗腫瘍免疫が動いたという事実は分けて確認します。ACPによる細胞死がどのような信号を伴うのかは、カルレティキュリン、ATP、HMGB1などを測定し、マクロファージや樹状細胞の反応と重ねて検証する研究課題です。
貪食細胞へ「食べて」と伝える目印
免疫細胞を呼び寄せる信号
細胞の損傷を知らせる危険信号
マクロファージへ「食べないで」と伝える信号
マクロファージは、細胞死の「後」を決める存在です
マクロファージは、傷んだ細胞を取り込む「貪食」を行います。取り込んだ後は、細胞の情報を処理し、周囲へサイトカインを出し、T細胞やNK細胞などとの連携に関わります。
反応の方向は、細胞死の種類、がん細胞から出る信号、低酸素、乳酸、慢性炎症、周囲のサイトカインによって変わります。炎症を収めて組織を修復する反応へ進む場合もあれば、抗原提示や炎症性の信号を通して抗腫瘍免疫へ進む場合もあります。
がん細胞はCD47などの「食べないで」という信号を使い、貪食から逃れることがあります。現在のがん研究では、「食べて」の信号を増やすこと、「食べないで」の信号を弱めること、腫瘍関連マクロファージの働く方向を整えることが、組み合わせて検討されています。
研究の核心は、壊した後を抗腫瘍免疫へつなげられるかです
抗がんペプチドの直接作用と、マクロファージを中心とした免疫反応をつなぐには、次の項目を一段ずつ確かめます。
ACPの取り込み、細胞内での移動、核およびミトコンドリア等への作用を確認する
アポトーシスなどの細胞死と、カルレティキュリン・ATP・HMGB1を測る
マクロファージが傷んだがん細胞を認識し、貪食する割合を調べる
炎症を収める反応と、抗腫瘍免疫へつながる反応を見分ける
T細胞・NK細胞の活性化、腫瘍内への集積、免疫記憶を確かめる
効果、安全性、投与量、対象患者、標準治療との組み合わせを検証する
現在分かっていることと、これから確かめること
Buforin IIbでは細胞内移行と核への集積、ミトコンドリア依存性アポトーシス、一部の別の抗がんペプチドでは免疫原性細胞死が前臨床研究で報告されています。
カルレティキュリン、ATP、HMGB1、CD47などの組み合わせが、貪食とその後の免疫反応に関わります。
細胞、動物、ヒトの順に、作用機序、投与量、安全性、対象患者、標準治療との組み合わせ、臨床的な効果を検証する必要があります。
2つの標的を、1つの経過として見ていきます
がん治療の研究所では、ACPによる「がん細胞」への働きかけと、「マクロファージ」を起点とする免疫・身体環境への働きかけを、一つの経過として捉えます。
治療前後の画像、血液、炎症、免疫、体力、食事、睡眠などを重ね、がん細胞への変化と身体が治療を受け止める力の両方を確認します。研究段階の知見は現在地を明記し、臨床で観察された変化と分けて蓄積します。
この積み重ねから、どの患者さんに、どの時期に、どの治療と組み合わせることが次の治療設計につながるのかを研究していきます。