CANCER TREATMENT|患者さんとご家族のためのがん解説
がん治療は、どこまで進んでいるのか
治療法は増え、治療成績も改善してきました。現在は、がんの場所だけでなく、分子の特徴や免疫、がんを取り巻く環境まで見て治療を考える時代です
がん治療の中心は、手術、放射線治療、薬物療法です。そこへ分子標的薬、抗体医薬、ADC、免疫チェックポイント阻害薬などが加わり、がんの種類や遺伝子の特徴に応じて治療を選ぶ機会が増えました。
一方、進歩の大きさは、がんの種類や病期によって異なります。同じ治療名でも対象となる患者さんは限られ、再発・転移、薬剤耐性、治療を続けるための身体状態など、まだ十分に解決されていない課題があります。
「新しい治療があるか」だけではなく、何を標的にする治療なのか、自分の病状に適応があるのか、ヒトでどこまで確かめられているのかを分けて考えることが大切です。
がんで亡くなる人は、増えているのか
日本では、がんによる死亡者数と粗死亡率は長期的に増えてきました。ここには、人口が増えたことに加え、がんになりやすい高齢者の割合が大きくなった影響が含まれます。
年齢構成の違いを調整した「年齢調整死亡率」で見ると、日本のがん死亡率は1990年代半ばを頂点として低下しています。検診、診断、禁煙を含む予防、治療、支持療法など、複数の変化が関係しています。
そのため、「死亡者数が増えたから治療が進歩していない」「海外より粗死亡率が高いから治療成績が悪い」とは、その数字だけでは判断できません。
同じ「死亡率」でも、粗死亡率と年齢調整死亡率では、見ているものが異なります。
実際の人口全体で、人口10万人あたり何人が亡くなったか
高齢化の影響を除き、時代や地域を比べるための指標
※国立がん研究センター「がん統計」の傾向を、患者さん向けに簡略化した概念図です。線は個別年の数値を示すものではありません。
日本と海外の治療成績は、同じ条件で比べる必要があります
国ごとのがん死亡率を比べるときは、同じ年齢構成、同じ集計年、同じがんの範囲で比較します。OECDでは、加盟国平均の年齢調整がん死亡率は2019年の人口10万人あたり204人から、2023年には191人へ低下したと報告されています。
ただし、国ごとの差には、喫煙や感染症などの危険因子、検診、診断時の病期、医療へのアクセス、治療の質などが重なります。全がんをまとめた一つの死亡率だけで、特定の治療や国の医療全体を順位づけることはできません。
比較には、年齢を調整した共通の指標を使います。
ハンガリー、スロベニア、ラトビア、スロバキア
人口10万人あたり・年齢調整値
メキシコ、トルコ、コスタリカ
※OECD「Health at a Glance 2025」に掲載された2023年の年齢調整値。国ごとの治療成績だけを表す数字ではありません。
治療は、がんの場所から、特徴や周囲の環境を見る方向へ進んでいます
これまでの治療が置き換わったのではなく、役割の異なる治療が増えました。手術や放射線治療で局所を治療し、薬物療法で全身に働きかける。さらに、がん細胞の特徴を狙う治療や、免疫を利用する治療を適応に応じて組み合わせます。
近年は、がん細胞そのものだけでなく、血管、線維芽細胞、免疫細胞などからなる腫瘍微小環境も研究対象です。なかでもマクロファージは、がんの成長、血管新生、免疫抑制、薬剤の届き方に関わる可能性があり、治療標的として研究されています。
治療名ではなく、「どこへ、何を目的に働きかけるか」で整理します。
手術・放射線治療・粒子線治療・焼灼や塞栓など
がんのある場所を切除する、壊す、働きを抑える細胞障害性抗がん剤・ホルモン療法など
血液を通じて全身にあるがん細胞へ働きかける分子標的薬・抗体医薬・ADCなど
がん細胞の分子や目印を手がかりに治療する免疫チェックポイント阻害薬・一部の細胞療法など
免疫ががんを攻撃する働きを利用するウイルス療法・光免疫療法・腫瘍微小環境・マクロファージなど
標準化された治療と研究段階の技術を区別して検討する※治療の位置づけは、がんの種類、病期、バイオマーカー、全身状態によって異なります。研究段階の治療を含みます。
治療法が増えても、すべての患者さんに同じ効果が出るわけではありません
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は、一部のがんで大きな変化をもたらしました。一方、標的となる分子がない、免疫が働きにくい、治療中に耐性が生じるなどの理由で、効果が得られない場合があります。
また、治療を受けられるかどうかは、がんの性質だけでなく、血液、臓器機能、栄養、炎症、体力、これまでの副作用にも左右されます。次の治療を考えるときは、治療名を探すだけでなく、現在の身体がその治療を受けられる状態かも確認します。
新しい治療ほど、研究段階を確かめます
「研究されている」ことと、「患者さんへの有効性と安全性が確認されている」ことは同じではありません。細胞実験、動物実験、少人数の臨床試験、比較試験、承認後の診療では、分かっていることの範囲が異なります。
がん治療の研究所では、標準治療を基盤に、抗体医薬、分子標的薬、ADC、免疫療法、細胞療法、局所治療などを整理したうえで、マクロファージや腫瘍微小環境を標的とする研究を読み解いていきます。
治療を検討するときに確認したいこと
- 何を標的とし、どのような目的で行う治療か
- 自分のがん種、病期、バイオマーカーに適応があるか
- 標準治療として確立しているか、研究・自由診療の段階か
- 効果をどの検査で、いつ判定するのか
- 副作用と、治療を続けるために必要な身体状態
- 現在受けている治療と組み合わせる根拠があるか