LATEST PAPERS & RESEARCH REPORTS|2026年9月15日更新
最新論文・
研究レポート
新しい発見と、患者さんの治療へ使える段階を分けて読みます
注目する論文を、研究段階から読む
掲載順:公開日の新しいレポートからがん細胞とマクロファージを標的に。次世代がん免疫研究
Macrophages: Targets for next-generation cancer immunotherapy
腫瘍関連マクロファージは、がんを支える方向にも、がん細胞を排除する方向にも変化できる可塑性をもっています。本総説では、「食べる」働きを高める方法、免疫抑制シグナルの解除、シグナル・代謝・遺伝子発現の再構築、二重特異性抗体、サイトカイン、遺伝子工学、CAR-Tなど、マクロファージを標的とする次世代の研究戦略が整理されました。
がん細胞だけを攻撃するのではなく、がんを取り巻く免疫環境を変え、マクロファージがもつ抗腫瘍作用を引き出すことが、世界のがん免疫研究の重要な方向になっています。T細胞を中心とした免疫治療を補う、別の免疫経路としても期待されています。
今後は、どの患者さんに、どの働きかけが適しているのかを見極め、マクロファージの「食べる力」や抗腫瘍作用を、より安全で的確な治療へ生かす研究が進められます。
がん細胞の「死に方」が、免疫の記憶につながる可能性
Ewingella americana × Buforin IIb
Ewingella americanaを用いたマウスの大腸がん研究では、腫瘍への集積と直接的な腫瘍傷害に加え、T細胞、B細胞、好中球を含む免疫反応が確認されました。腫瘍が消失したマウスへ同じがんを再移植した試験では、10匹中10匹で腫瘍形成が抑えられました。別の前臨床研究では、Buforin IIbによるがん細胞死と、免疫原性細胞死(ICD)との関係が調べられています。
がん細胞を直接傷害することと、その細胞死を免疫細胞が受け取り、次の抗腫瘍免疫へつなげることを、一つの流れとして考える研究です。がん細胞の『死に方』が、その後の免疫反応や免疫記憶を左右する可能性を示す点に、治療開発上の重要な意味があります。
抗がんペプチドによる細胞死を、マクロファージやT細胞がどのように受け取り、長く続く免疫反応へつなげるのか。ACPを含むペプチドごとの違いと、ヒトで免疫記憶が生まれる条件を確かめる研究が期待されます。
卵巣がん細胞へ入り、ミトコンドリアを標的とするペプチド
Targeting primary and metastatic ovarian cancer with a peptide derived from the human NAF-1/CISD2 protein
ヒトのNAF-1/CISD2タンパク質に由来するペプチドが、培養した卵巣がん細胞へ入り、ミトコンドリアへ作用しました。ヒト卵巣がん細胞を移植したマウスでは、原発巣と転移巣の大きさ・増殖が抑えられました。
がん細胞への選択的な侵入と、細胞内のミトコンドリアを狙うという、抗がんペプチド研究の重要な方向を示しています。ACPそのものを調べた研究ではありませんが、作用点を考えるうえで近い研究領域です。
がん細胞への選択性を保ちながら、体内でペプチドを安定して届ける方法を整え、投与量や正常組織への影響を確認することが、ヒトでの研究へ進む次の段階です。
短いペプチドへ脂質を加えると、がん細胞膜への作用が変わる
Anticancer Activity of the Antimicrobial Myristoylated Peptide Myr-B in HeLa Cells
魚由来ペプチドを短く設計し、脂質を付加したMyr-Bは、子宮頸がん細胞と大腸がん細胞の膜を傷つけました。研究で用いた条件では、正常ヒト線維芽細胞への細胞毒性と溶血は限定的でした。
ペプチドの配列だけでなく、脂質化などの化学修飾によって、細胞膜への結合や細胞選択性が変わることを示します。新しいペプチドを設計する際に、構造と作用を一体で評価する必要があります。
ペプチドの配列や脂質化を調整し、がん細胞への選択性と作用の強さを高める研究が続きます。次の段階では、動物での体内分布や安全性、正常組織への影響を確かめることが重要です。
低酸素で変化した幹細胞由来エクソソームは、がんを支える場合がある
Pro-tumorigenic effects and therapeutic implications of mesenchymal stem cell-derived exosomes under hypoxic conditions
4つのデータベースから選ばれた前臨床8研究をまとめたところ、低酸素下で調整された間葉系幹細胞由来エクソソームは、複数のがんモデルで増殖、移動、浸潤を高め、アポトーシスを減らす方向へ働いていました。
同じ『幹細胞由来』『エクソソーム』でも、細胞の由来、培養時の酸素、含まれるmiRNAなどで作用が変わります。がん患者さんへの使用では、製品名だけでなく製造条件と品質評価まで見る必要があります。
細胞の由来や培養時の酸素濃度、含まれる成分と働きの関係を明らかにし、がん患者さんにも安全に使える製造条件と品質基準を整える研究が求められます。
画像に映る再発を待たず、ctDNA陽性を起点に治療する
ctDNA-Guided Adjuvant Atezolizumab in Muscle-Invasive Bladder Cancer
筋層浸潤性膀胱がんの手術後にctDNAを定期測定し、陽性となった250人をアテゾリズマブ群とプラセボ群へ無作為に割り付けました。無病生存期間の中央値は9.9か月対4.8か月、全生存期間は32.8か月対21.1か月で、ctDNAを起点とした治療に有利な結果でした。
ctDNAは、がん細胞から血液中へ放出されたDNA断片です。血液中の細胞そのものを数えるCTCとは異なり、手術後に残るごく少量の病変(MRD)や再発リスクを、画像より早く捉えて治療判断へつなげる研究が第Ⅲ相まで進みました。
ctDNAの変化を、ほかのがんや治療でも再発の早期把握と治療開始の判断に生かせるか、検出精度、測定時期、組み合わせる治療を含めた研究が進められます。
標的を認識したCARマクロファージは、代謝も切り替えて攻撃する
PSMA-targeted CAR-macrophages drive glycolytic reprogramming for enhanced prostate cancer immunotherapy
PSMAを認識するよう設計したCARマクロファージは、前立腺がん細胞を標的依存的に貪食しました。標的との接触後には、解糖系を高め、酸化的リン酸化を抑える代謝変化と、炎症性・抗腫瘍性の性質が確認されました。
マクロファージの働きは、M1・M2という呼び名だけでなく、何を認識し、どの代謝経路を使うかでも変わります。標的認識と代謝の両方を設計する研究が進んでいます。
標的を認識したマクロファージの代謝変化を、体内でも長く維持できるか。がんの種類ごとに適した標的を選び、ヒトでの安全性と抗腫瘍作用へつなげる研究が次の段階です。
同じマクロファージ標的薬でも、腫瘍環境によって反応が分かれる
Macrophage sensitivity to bexmarilimab-induced reprogramming is shaped by the tumor microenvironment
乳がん患者さん由来の腫瘍組織を用い、RNA解析、サイトカイン解析、一細胞・空間解析を重ねた研究です。マクロファージ標的抗体への反応は一様ではなく、腫瘍の炎症状態、マクロファージの性質・由来・位置で異なりました。
『マクロファージを活性化すればよい』という一律の考え方ではなく、治療前の腫瘍環境を読み、反応しやすい患者さんを選ぶ研究の必要性を示しています。
腫瘍内のマクロファージの性質や位置、炎症状態を治療前に調べ、反応しやすい患者さんを見極める指標をつくることが、個別化したマクロファージ治療につながります。
CARマクロファージが、固形がんの中へ到達したことをヒトで確認
CAR-macrophage therapy for HER2-overexpressing advanced solid tumors: a phase 1 trial
HER2陽性の進行固形がん14人へCARマクロファージCT-0508を投与した初のヒト第Ⅰ相試験です。用量制限毒性、重度のサイトカイン放出症候群、神経毒性は認められず、投与細胞が腫瘍へ到達し、CD8陽性T細胞の増加を伴う環境変化が確認されました。
マクロファージを使った細胞治療が、製造・投与でき、固形がん内へ移動することをヒトで示した点が重要です。マクロファージとT細胞をつなぐ研究が、前臨床から初期臨床へ進みました。
今後は、より多くの患者さんを対象に、どのHER2発現量で反応が期待できるかを見極めます。投与したマクロファージの働きを長く保つ方法や、ほかの免疫治療との組み合わせも重要な研究テーマです。
患者ごとのがん変異から作るRNAワクチンが、長く残るT細胞を誘導
RNA neoantigen vaccines prime long-lived CD8+ T cells in pancreatic cancer
手術した膵管腺がんを解析し、患者さんごとの変異に合わせたRNAネオアンチゲンワクチンを作製した初期試験の長期追跡です。ワクチンに反応するT細胞が誘導された8人では、反応がみられなかった8人より無再発生存期間が長く、T細胞の一部は約3年後も確認されました。
免疫が見分ける目印を患者さんごとに選び、再発につながる残存がん細胞を長く監視するという研究です。免疫が反応しにくいとされてきた膵がんでも、個別化ワクチンがT細胞を誘導できる可能性を示しました。
より大きな比較試験で、再発予防への効果と、長く残るT細胞を誘導できる患者さんの特徴を確かめます。個別化ワクチンを、より早く安定して届ける製造体制も研究課題です。
乳酸がマクロファージを呼び込み、免疫治療抵抗性へつながる仕組み
Elevated protein lactylation promotes immunosuppressive microenvironment and therapeutic resistance in pancreatic ductal adenocarcinoma
膵管腺がんでは乳酸とタンパク質の乳酸化が高く、ENSAというタンパク質の乳酸化がSTAT3・CCL2経路を介して腫瘍関連マクロファージを呼び込み、細胞傷害性T細胞を抑える仕組みが示されました。マウスモデルでは、この経路を抑えると免疫チェックポイント阻害薬の効果が高まりました。
乳酸は単なる代謝の老廃物ではなく、タンパク質の働きと免疫細胞の配置を変える信号になり得ます。がん代謝、マクロファージ、免疫治療抵抗性を一つの経路として捉える研究が進んでいます。
患者さんの腫瘍で乳酸化や関連経路を測り、免疫治療が働きにくい状態を見分ける指標へつなげる研究が必要です。乳酸化を抑える方法と免疫治療を組み合わせる可能性も検討されます。