研究・解説一覧へ戻る
04|がんと免疫を知る腫瘍微小環境とマクロファージ

TUMOR MICROENVIRONMENT|患者さんとご家族のためのがん解説

腫瘍微小環境と
マクロファージ

がんは、血管・免疫・線維・酸素・代謝物に囲まれた環境の中で、周囲と影響し合っています

がん組織には、がん細胞とともに、免疫細胞、血管、線維芽細胞、神経、細胞外マトリックスなどが存在します。

酸素や栄養の届き方、細胞が出す信号、乳酸などの代謝物も加わり、がんの周囲に局所的な環境をつくります。この環境を「腫瘍微小環境」と呼びます。

マクロファージは、この環境から多くの信号を受け取る免疫細胞です。環境に応じて働き方を変え、血管、線維、ほかの免疫細胞へ新たな信号を返します。

腫瘍微小環境は、がんを囲む一つの生態系です

がん細胞は、周囲の細胞へ働きかけ、酸素や栄養を運ぶ血管を引き寄せます。免疫細胞や線維芽細胞も集まり、それぞれが情報伝達物質を出します。こうして生まれた環境は、がん細胞の増殖、免疫からの逃避、周囲への広がりに影響します。

同じ種類のがんでも、血流、低酸素、線維化、免疫細胞の構成は患者さんや病変ごとに異なります。同じ患者さんの中でも、原発巣と転移巣、治療前と治療後で環境は変化します。

FIGURE|腫瘍微小環境の循環

環境がマクロファージを変え、
マクロファージが環境をつくり替えます

がん細胞を囲む異常な血管、低酸素、線維、免疫細胞、代謝物がマクロファージへ影響し、変化したマクロファージが血管形成、線維化、免疫抑制、浸潤へ影響する循環を示した概念図
血管流れが不均一になる

酸素・栄養・薬剤の届き方に差が生まれる

酸素と代謝低酸素や乳酸が増える

がん細胞と免疫細胞の働き方が変化する

線維組織が硬く、密になる

細胞や薬剤が入りにくい領域が生まれる

免疫攻撃と抑制が同時に起こる

T細胞、NK細胞、マクロファージが影響し合う

マクロファージ環境の信号を読み取る

受け取った信号に応じて働く方向を変える

循環周囲へ新たな信号を返す

血管、線維、免疫、がんの広がりへ影響する

※腫瘍微小環境の主な関係を整理した概念図です。細胞の種類や働きは、がんの種類、病変の場所、治療歴によって異なります。

血管の乱れが、低酸素と薬剤の届きにくさを生みます

がん組織では、新しい血管が急いでつくられます。構造が不規則で漏れやすく、血液の流れにも偏りがあるため、酸素が十分に届かない領域が生まれます。

低酸素の領域では、がん細胞と周囲の細胞が生き残るための働きを変えます。マクロファージも低酸素や乳酸などの信号を受け、血管形成や免疫抑制、組織の作り替えを支える方向へ傾くことがあります。血流の偏りは、薬剤が届く量や放射線治療への反応にも影響します。

線維と細胞外マトリックスが、がんの足場をつくります

線維芽細胞は、コラーゲンなどの細胞外マトリックスをつくり、組織の形を支えます。がんの周囲でこの働きが強まると、組織が硬く密になり、内部の圧力が高まります。

密な線維は、免疫細胞や薬剤が腫瘍の奥へ入るときの壁になります。一方で、組織が作り替えられる過程では、がん細胞が周囲へ移動する経路も生まれます。マクロファージは線維芽細胞と信号を交換し、この足場の形成と変化へ関わります。

マクロファージは、環境を読み、環境へ働き返します

がん細胞や線維芽細胞が出す物質は、血液中の単球や組織のマクロファージを腫瘍へ集めます。集まったマクロファージは、低酸素、代謝物、慢性炎症、周囲の免疫細胞から複数の信号を受け取ります。

血管へ

血管形成を支える物質を出し、酸素や栄養の流れを変える

線維へ

組織の修復と作り替えを促し、硬さや細胞の通り道へ影響する

免疫へ

T細胞やNK細胞の集まり方と働きを調整する

がん細胞へ

増殖、生存、周囲への浸潤に関わる信号を送る

この双方向のやり取りが続くと、がん細胞がつくった環境をマクロファージが支え、変化した環境がさらにマクロファージの働きを変える循環が生まれます。

治療への反応も、腫瘍微小環境の影響を受けます

薬物療法では、血流と組織の圧力が薬剤の届き方へ影響します。放射線治療では、腫瘍内の酸素量が治療反応に関わります。免疫治療では、T細胞が腫瘍へ入り、がん細胞を見つけ、働き続けられる環境が重要です。

治療によってがん細胞が傷つくと、組織の修復反応も起こります。マクロファージは傷んだ細胞の処理と修復を担うため、治療後の腫瘍微小環境にも関わります。治療前後で環境がどのように変わるかを見ることが、治療反応を考える手掛かりになります。

研究は、腫瘍微小環境を整える方向へ広がっています

腫瘍微小環境を対象とする研究では、血管の構造を整えて薬剤や免疫細胞を届きやすくする、線維や組織の圧力を調整する、低酸素や代謝を変える、マクロファージが腫瘍へ集まる流れや働く方向を変えるといった方法が検討されています。

がん細胞を標的とする治療、免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療などとの組み合わせも研究されています。治療としての効果と安全性は、がんの種類、標的、組み合わせごとに臨床試験で確かめられています。

がん細胞の特徴と、がんを取り巻く環境を一緒に見ます

腫瘍微小環境を考えるときは、血流、低酸素、炎症、線維化、代謝、免疫細胞の構成を、画像、血液検査、病理、治療歴、身体の状態と重ねて見ます。

がん治療の研究所では、がん細胞へ働きかける治療を基盤に、治療が届き、免疫が働き、身体が回復できる環境をどのように整えるかを研究しています。

この環境へマクロファージを通じて働きかける研究は、次の「マクロファージを標的とするがん研究」で、方法と臨床試験の現在地から整理します。

免疫と身体環境から治療を考える

ご自身の治療について、相談したい方へ

治療整理相談を見る