TUMOR MICROENVIRONMENT × RESISTANCE|治療反応を「周囲」から読み解く
腫瘍微小環境と
治療抵抗性の研究
治療の効き方は、がん細胞の性質と、がんを取り巻く環境の両方から決まります
検査で同じ種類と診断されたがんでも、治療への反応は患者さんごと、病変ごとに異なります。治療がよく届く場所と届きにくい場所が、一つの腫瘍の中に同時に存在することもあります。
その違いを生む一つの要因が、がん細胞を囲む血管、線維、酸素、代謝物、免疫細胞などからなる「腫瘍微小環境」です。周囲の環境は、薬剤の通り道、放射線への反応、免疫細胞の入り方、がん細胞の生存戦略を変えます。
治療抵抗性の研究は、がん細胞が持つ遺伝子変化に加え、治療が届き、効き続け、免疫が働ける環境まで対象を広げています。
薬剤や免疫細胞は、
がん細胞へ届くまでに複数の壁を通ります

- 1入口異常な血管
血流にむらが生まれ、薬剤と酸素が届く量に差が出ます。
- 2通り道線維と組織圧
密な細胞外マトリックスが、腫瘍の奥へ進む動きを妨げます。
- 3腫瘍の内部低酸素・酸性化
がん細胞が環境へ適応し、治療から生き残る性質を強めます。
- 4免疫の働き抑制性の細胞と信号
マクロファージなどが、T細胞の侵入や攻撃を抑える方向へ働くことがあります。
図は、固形がんでみられる代表的な関係を整理した概念図です。環境の構成と影響は、がんの種類、病変の場所、治療歴によって異なります。
治療抵抗性は、4つの視点から整理できます
治療抵抗性とは、治療開始時から反応しにくい状態と、いったん反応した後に効きにくくなる状態を含む言葉です。複数の仕組みが重なり、時間とともに変化します。
血流が不均一になり、薬剤や免疫細胞が腫瘍の奥まで届きにくくなります。
治療が狙う分子を減らす、別の増殖経路を使う、薬剤を細胞外へ出すなどの変化が起こります。
酸素や栄養が乏しい環境へ適応し、増殖を休む細胞や細胞死を回避する細胞が残ります。
T細胞が入りにくい構造や、マクロファージなどがつくる抑制性の信号が免疫反応を弱めます。
血管や線維がつくる「届きにくさ」と、がん細胞自身がつくる「効きにくさ」を分けて見ることで、次に確かめるべき検査や組み合わせ治療が整理しやすくなります。
一つの腫瘍の中にも、効く場所と残る場所があります
腫瘍の中心部と周辺部では、血流、酸素、栄養、免疫細胞の数が異なります。増殖が活発な細胞、ゆっくり休む細胞、低酸素へ適応した細胞も混在します。この空間的な違いを「腫瘍内不均一性」と呼びます。
治療は感受性の高い細胞を減らす一方で、生き残った細胞と周囲の環境へ新たな選択圧をかけます。標的分子を失った細胞、別の増殖経路を使う細胞、休眠状態へ移る細胞が残り、治療後の腫瘍をつくることがあります。
原発巣と転移巣でも環境は変わります。治療前の検体だけで将来の反応を固定的に考えるより、画像、血液、病理、遺伝子やバイオマーカーを経時的に重ねる視点が重要です。
治療の種類ごとに、環境が影響する場所があります
血流、組織圧、線維が薬剤の分布へ影響します。細胞側では標的の変化、薬剤排出、DNA修復、代謝の切り替えなどが反応を変えます。
酸素は放射線によるDNA損傷を固定する働きに関わります。低酸素域では放射線への反応が弱まり、生存と修復の信号が動きやすくなります。
抗原の見え方、T細胞の侵入、免疫チェックポイント、マクロファージ・制御性T細胞・MDSCなどの抑制性細胞が反応へ影響します。
治療後の修復反応も、次の環境をつくります
治療によってがん細胞が傷つくと、細胞の断片や危険信号が周囲へ放出されます。マクロファージは傷んだ細胞を処理し、線維芽細胞や血管へ修復の合図を送ります。この反応は組織の回復に必要です。
修復が長く続く環境では、炎症、血管新生、線維化、免疫抑制が重なり、残ったがん細胞の生存を支える場合があります。治療前の環境に加え、治療によって環境がどう変化したかを見ることが、獲得抵抗性を考える手掛かりになります。
研究は、抵抗性を生む環境を整える方向へ進んでいます
腫瘍微小環境を対象とする研究は、標準治療を支える組み合わせとして進められています。目的は、治療の通り道を整え、がん細胞が受ける作用を高め、免疫細胞が働ける状態をつくることです。
異常な血管を一時的に正常化し、酸素・薬剤・免疫細胞が届く条件を整える研究
細胞外マトリックス、線維芽細胞、組織圧へ働きかけ、腫瘍内への移行を改善する研究
低酸素応答、乳酸、糖・脂質・アミノ酸代謝など、がん細胞と免疫細胞のエネルギー利用を対象とする研究
腫瘍への集積を調整する、抑制性の働きを弱める、貪食と抗原提示を高める研究
一細胞解析や空間オミクスで、細胞の種類・状態・位置関係を治療前後に調べる研究
研究の現在地は、方法ごとに確かめます
手術、薬物療法、放射線治療、免疫治療を、病状とバイオマーカーに応じて組み合わせる考え方は、現在のがん治療の基盤です。
血管新生阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬など、微小環境へ関わる治療も実臨床で使われています。適応はがん種と病状ごとに定まります。
どの患者さんに、どの時期に、どの治療と組み合わせるかを、前臨床研究と臨床試験で確かめています。
がん細胞と周囲の環境を、治療前後で重ねて見ます
治療抵抗性を考えるときは、がん細胞の遺伝子やバイオマーカーとともに、画像で見える広がり、血液で分かる炎症・栄養・臓器機能、病理で見える免疫細胞と線維、これまでの治療反応を重ねます。
がん治療の研究所では、がん細胞へ働く治療を基盤に、治療が届く環境、免疫が働く環境、身体が治療を受け止めて回復する状態を一つの経過として捉えます。
マクロファージへ働きかける研究は「マクロファージを標的とするがん研究」で、がん細胞への直接作用と免疫反応をつなぐ研究は「抗がんペプチドとマクロファージをつなぐ研究」で詳しく整理しています。