MACROPHAGE|患者さんとご家族のためのがん解説
マクロファージとは
見つける・食べる・掃除する・伝える・修復する。身体の組織で働く免疫細胞です
マクロファージという名前は、「大きい」を意味する言葉と、「食べる」を意味する言葉から生まれました。細菌や異物、古くなった細胞、傷んだ細胞を取り込み、分解して処理します。
その役割は、食べることだけにとどまりません。周囲の変化を見つけ、ほかの免疫細胞へ情報を伝え、炎症や組織修復の流れを調整します。身体を守り、日々の手入れを続ける細胞です。
身体の中を見張り、組織の状態を保っています
マクロファージは、皮膚、肺、肝臓、腸、脳、骨など、ほぼすべての組織に存在します。普段から周囲を見回り、細胞が壊れたときや細菌が侵入したときに、いち早く変化を捉えます。
発生の早い段階から組織に住み続けるマクロファージと、炎症や傷が生じたときに血液中の単球から加わるマクロファージがいます。いる場所と受け取る信号に合わせて、働き方を変えています。
見つけてから修復まで、ひとつの流れをつくります

- 01見つける細菌、異物、細胞の傷を示す信号を捉える
- 02食べる膜で包み込み、細胞の中へ取り込む
- 03掃除する取り込んだものを分解し、不要なものを片づける
- 04伝える周囲へ信号を出し、ほかの免疫細胞へ情報をつなぐ
- 05修復する炎症を収め、傷ついた組織の回復を支える
※マクロファージの主な働きを患者さん向けに整理した概念図です。実際の働きは、組織や周囲の環境によって連続的に変化します。
免疫というオーケストラをまとめる「マクロファージ」
身体の免疫は、異なる役割を持つ細胞が情報をやり取りしながら働く、オーケストラのような仕組みです。マクロファージは異常を見つけ、必要な細胞を呼び、炎症を起こし、反応が進むと片づけと修復へ切り替えます。
それぞれの免疫細胞が力を発揮できるように、現場の状況を読み取り、免疫反応の始まりから終わりまでをつなぐ。マクロファージは、免疫というオーケストラをまとめる「指揮者」のような細胞です。
- 好中球異常が起きた場所へいち早く集まり、細菌や異物へ働きかける
- NK細胞異常な細胞を早い段階で見つけ、すばやく攻撃する
- 樹状細胞異常の特徴を取り込み、その情報をT細胞へ伝える
- T細胞伝えられた目印を捉え、標的となる細胞へ働きかける
- B細胞抗体をつくり、次の免疫反応に備える
周囲から受け取る信号によって、指揮の方向が変わります

異常を見つけ、仲間を集め、攻撃から片づけ、組織の修復までをつなぐ
がんがつくる信号を受け、攻撃を抑え、血管形成や組織修復へ働きが傾く
※免疫細胞の関係を患者さん向けに整理した概念図です。実際には、多くの細胞と物質が相互に影響しています。
がんの周囲では、指揮の方向が変わることがあります
がんの周囲には、慢性的な炎症、酸素不足、血流の変化、がん細胞が放出するさまざまな物質が生じます。マクロファージは、こうした周囲の信号を読み取りながら働き方を変えます。
がんがつくる信号が続くと、異常な細胞を攻撃する方向から、炎症を抑え、血管をつくり、傷ついた組織を修復する方向へ働きが傾くことがあります。たとえるなら、がんがつくる環境から別の楽譜を渡され、演奏の方向を変えられてしまう状態です。
免疫細胞が集まっていても、指揮の方向によって、がんへの攻撃のまとまり方は変わります。マクロファージの数だけでなく、どのような環境で、どの方向へ働いているのかを見ることが重要です。
動画で、マクロファージの役割を見る
役割の全体像と、対象へ近づいて取り込む実際の動きを、2本の動画で確認できます。
※映像は貪食の動きを理解するための参考です。撮影条件や対象によって見え方は異なります。
食べたあとに、免疫の次の動きをつくります
マクロファージは、取り込んだ細菌や細胞の一部を分解します。その情報を細胞表面に示したり、サイトカインやケモカインと呼ばれる信号を出したりして、周囲の免疫細胞へ異常の場所と状況を伝えます。
好中球や単球を呼び集め、T細胞などの働きへ情報をつなぐことで、局所で始まった反応が免疫全体へ広がります。このため、マクロファージは「免疫の司令塔」と表現されることがあります。正確には、多くの免疫細胞と情報を結ぶ調整役の一つです。
炎症を始め、修復へ切り替える役割も担います
細菌の侵入や組織の傷を見つけたマクロファージは、炎症の信号を出し、免疫細胞を集めます。傷んだ細胞や異物の処理が進むと、今度は炎症を収め、組織を修復する方向へ働き方を変えます。
炎症を起こすことと、炎症を終わらせることは、どちらも身体を守るための働きです。刺激が長く続く環境では修復への切り替えが進まず、炎症と組織の傷が繰り返されることがあります。
いる場所に合わせて、名前と働き方が変わります
脳ではミクログリア、肝臓ではクッパー細胞、肺では肺胞マクロファージと呼ばれる細胞が、それぞれの組織に合う仕事を担っています。骨をつくり替える破骨細胞も、マクロファージと近い系統の細胞です。
肺では吸い込んだ粒子を処理し、肝臓では血液から運ばれてきた物質を見張り、脳では神経の周囲を手入れします。同じマクロファージという仲間でも、周囲の環境から受け取る信号によって姿と役割が変わります。
がんの周囲でも、環境に応じて働き方が変わります
がん組織へ集まったマクロファージは、腫瘍関連マクロファージと呼ばれます。がん細胞、低酸素、炎症、線維化などから信号を受け取り、その場所に適応していきます。
異常な細胞を攻撃する方向へ働く場合もあれば、傷を修復する働きが長く続き、血管形成、組織の作り替え、T細胞の抑制などを通じて、がんが育ちやすい環境を支える場合もあります。
研究では、働き方を整理するために「M1」「M2」という分類が使われてきました。実際のマクロファージは二種類に分かれる細胞ではなく、周囲の信号に応じて連続的に変化します。次の記事では、M1・M2と腫瘍関連マクロファージの関係を整理します。
がん細胞と、がんを取り巻く環境をつなぐ細胞として見ます
マクロファージは、がん細胞、免疫、炎症、血管、線維化、組織修復の間で働いています。がんの大きさだけを追うのではなく、マクロファージがどのような信号を受け、どちらの方向へ働いているのかを見ることが、腫瘍微小環境を考える入口になります。
がん治療の研究所では、マクロファージを単に増やす、減らすという見方ではなく、本来の働きを発揮しやすい環境へ整えるという視点から研究動向を追っています。